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東京地方裁判所 昭和29年(行)96号 判決

原告 溝畑馨二 外三名

被告 最高裁判所

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告が昭和二十九年三月六日付をもつて原告らそれぞれに対してなした懲戒処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、請求の原因

一、原告らはいずれも大阪地方裁判所を任命権者とする裁判所職員で、原告溝畑は裁判所書記官補、原告大鹿は雇、原告大和はタイピストであつていずれも大阪地方裁判所に勤務するもの、原告高津は裁判所書記官補であつて大阪簡易裁判所に勤務するものであつたところ、被告は昭和二十九年三月六日裁判所職員臨時措置法(以下単に臨時措置法という)、国家公務員法(以下国公法という)第八十二条第一ないし第三号に依る懲戒処分として原告らに対し免職の処分をなし、翌七日その旨の懲戒処分書及び処分説明書を原告に送達した。

二、しかしながら、右各懲戒処分は次項に掲げる各理由によりいずれも取消さるべきものであり、原告らは昭和二十九年四月一日国公法第九十条に基き最高裁判所にその審査の請求をしたが、その後三ケ月以上を経るも最高裁判所はこれに対する裁決をなさない。よつて、行政事件訴訟特例法第二条但書により本訴請求におよぶ。

三、取消理由

(一)、国公法及び臨時措置法は憲法第十三条、第十四条及び第二十八条に違反するから無効の法規であり、かかる無効の法規に基いてなされた本件懲戒処分は重大な瑕疵がある。国公法が憲法第二十八条に違反するとの主張の根拠は次のとおりである。即ち国公法第九十八条は国家公務員の使用者代表との労働協約締結権を否認し、争議行為を禁止しているから、右第九十八条を中心とする一連の法規が憲法第二十八条に低触することは疑の余地なく、右第九十八条は国公法全体に影響を有する重要法規であるから、同条の無効は国公法全体の無効を来たさざるを得ない。憲法第十三条の反対解釈から公共の福祉を図るためには、憲法の保障する国民の権利を制限し、または剥奪し得るとの見解は右条項が個人の尊厳性の面を規定するものであつて、これを制限せんとする面から規定するものでない点で失当であり、もしかかる解釈が許されるとすれば、憲法第十一条、第九十七条は空文に帰し、憲法第二十二条、第二十九条に特に公共の福祉という文言を挿入して規定する必要もなく、憲法が基本的人権を制限し得る場合につき、その要件を定めた諸々の規定は殆ど無意味な蛇足に過ぎないということになる。また、個人の尊厳や基本的人権といえども絶対ではなく、権利の内容行使にも自ら限界あるとの所論も予想されるが、国家公務員の争議行為であつてもその規模、方法によつては公共の福祉に殆ど無関係の場合もあるのであり、争議行為の規模、方法が常軌を逸し、民主主義の許す限度を超え、或は社会の治安を乱して放置し得ないようになれば、各場合に応じ、憲法第十二条にいわゆる権利の濫用となるから、刑法その他の法令の適用、緊急事態に処する特別立法によつてこれを処理するの途を講ずれば足るに拘らず、国公法は一般的に国家公務員の争議権、労働協約締結権を否認しているのであるから、この点で憲法第二十八条に違反する。

更に国公法は一面において国家公務員に対し憲法第二十八条の権利を制限しているが他面においてこれによつて蒙るべき不利益を予防し、または救済するに適当な措置を講じているから、法全体としては国家公務員に対し不平等の取扱をしていないことになり、結局憲法に適合するとの見解があるが、基本的人権の侵害という重大な違憲性が右の如き偽装的措置で救われるものとは考えられないし、臨時措置法に至つては国公法の一部のみを準用し、同法第十七条の重要規定をことさらに準用せず、右の偽装的措置すら施していないのであるから、その違憲性は疑問の余地がない。

(二)  国公法第八十四条第一項の趣旨によれば、懲戒処分権はその任命権者に専属すると解すべきところ、原告らの任命権者は大阪地方裁判所であるから、被告は原告らに対し懲戒処分をなす権限を有しない。

被告が本件懲戒処分をなしたのは国家公務員法第八十四条第二項を根拠としたものと解されるのが、右解釈は誤りである。即ち第八十四条第一項は懲戒権限の所在を宣明しているのに対し、同第二項には右権限の所在を左右するような文言が認められず、もし第二項に第一項の内容と抵触する内容を含ましめたものであるならば、当然第二項は但書となるか、あるいは「前項の規定に拘らず」などの文書を含む規定となる筈である。それ故第二項は第一項を補足する手続的規定として人事院が法定の調査を経て懲戒手続に付するを相当と認めたときは任命権者に対し懲戒権の発動を促して懲戒手続に付することができる旨を規定したにとどまり、懲戒権そのものは第一項により任命権者のみが之を行使すべきものと解するのほかはない。

仮に国公法第八十四条第二項によつて人事院には国家公務員を懲戒処分に付する権限が与えられているとしても、被告は他の裁判所を任命権者とする裁判所職員に対し懲戒処分を行う権限を有しない。臨時措置法は国公法の規定を裁判所職員の懲戒等に関する事項について準用し、その場合に国公法の規定中「人事院」とあるを「最高裁判所」と読み替える旨を定めているが、臨時措置法は人事院の規則制定権を定めた第十六条、人事行政に関する調査権を定めた第十七条など人事院の人事行政全般に亘る具体的権限の基礎となる権限を定めた総則的規定(第一条ないし第二十六条)を準用していないから、最高裁判所は人事行政に関する権限についての実質的基礎を欠いでいるというべきで、第八十四条第二項を準用しても右条項による懲戒処分の前提要件たる「この法律に規定された調査」を行う法的根拠を欠き、結局右条項によつては職員の懲戒処分はなしえない。

なお、裁判所法第八十条により被告が有する司法行政上の監督権中に国公法第十七条の人事院の調査権に当する権限が含まれているという見解もあるが、右は人事院の有する調査権とは本質的に異り、且つ極めて劣弱な権限であり、更に裁判所法第八十一条により制限的にのみ行使され得るものであるから、右監督権を根拠に国公法第八十四条第二項の調査をなすことはできない。

(三)  仮に被告が懲戒処分権を有しているとしても、本件処分は法定の手続に従わずなされた違法がある。即ち国公法第八十四条第二項は懲戒手続に付する場合は事前に同法の定める調査を経ることを要する旨を定め、右調査とは同法第八十九条ないし第九十二条を指すと解せられるに拘らず、本件懲戒処分はなんらかかる調査をなすことなく行われた。

仮に国公法第八十四条第二項にいわゆる調査が、同法第十七条の調査を指すと解せば、臨時措置法が右第十七条の準用規定を欠いていること前述のとおりであるから、本件の場合、右条項による調査は行い得ない理である。

仮に、国公法第八十四条第二項にいわゆる調査を行う権限が裁判所法第八十条の司法行政監督権に含まれるとしても、この調査の内容としては次の如き制約があるものと解すべきである。即ち、国公法第八十四条第一項に懲戒権が任命権者にある旨の原則規定を置く趣旨は、懲戒理由の存否、懲戒処分の要否、その程度如何の判断について任命権者こそもつとも適切妥当な地位にあり、部外者がこれを過誤なく判断することは至難であるというにあると解せられる。従つて、何よりも第一義的に尊重せられるべき判断は任命権者の判断であつて、もし、万一任命権者の判断に誤りがある場合にのみ例外的に人事院がこれを正すに過ぎない建前で、部外者たる人事院はまず任命権者の判断を尊重してからでなければならない。そして国公法第八十四条第二項が特に調査と規定しているのは、右のような趣旨から理解すべきで、ここにいう調査は少くとも任命権者の判断を覆すに足る新しい資料を集める程度の調査たるを要し、任命権者が判断の基礎とした資料と同一の資料に基いて判断する限りにおいては、人事院といえども任命権者の判断を尊重し、これと異る判断をなすことを得ず、ただ、任命権者がなんらかの理由によつて判断の基礎とすることのできなかつた新しい資料が発見され、右資料を加えて新たに判断すれば任命権者の判断は誤つているという場合にのみ、はじめて人事院は懲戒処分をなし得ると解せられる。国公法第八十四条第二項の調査は右の如き内容をもつたものであるに拘らず、本件懲戒処分は被告においてかかる調査を経ることなくなされたもので違法たるを免れない。

(四)  本件懲戒処分は別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項に記載の事実に籍口しているが、実は原告らが全国司法部職員労働組合(以下、全司法という。)の組合員としてなした正当な活動を抑圧するためになした不利益取扱であり、憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項に違反するものである。

1 以下列挙する被告の労働組合に対する態度は被告の不当労働行為意思を推測せしめる。

(1) 原告らに対する各処分説明書にはその冒頭にそれぞれ原告の全司法における地位を表示し、かつ、事実摘示においても原告らの組合員としての活動を非難することに努力が集中されており、被告が懲戒理由として主張する職場離脱などはその主眼でないことが如実に示されている。

(2) いわゆる四号調整問題は被告が労働者の団結権を無視し、労働組合を敵視し、かねてからその弱体化ないし解消を企図していたことを示す。即ち、いわゆる四号調整問題とは、昭和二十八年秋頃まず問題となり、ついで昭和二十九年頃検察庁において審施をみると共に、被告も再び具体的動きを示したもので、その内容とするところは、書記官の給与につき四号、書記官補のそれにつき二号、管理職にある事務官を除く事務官のそれにつき二号を調整して、その待遇を改善することを条件として、全司法を解散し、一週間の拘束時間を五十二時間とし、超過勤務手当は支払わないとするもので、被告が全司法の解体を策したものである。右は世論を背景とする全司法の全面的反対によつて被告も撤回するに至つたが、この一事は被告の労働組合に対する不認識、無理解を示すと共に、不当労働行為意思を示すものである。

(3) 昭和三十年三月末、被告は事務総長五鬼上堅磐の名義を以て、全司法に対し、庁舎における組合のビラ貼りを禁ずる旨の警告文を発し、爾来再三の交渉にも拘らずこれを撤回せず組合活動を威嚇し続けている。右は被告が庁舎管理権に名をかりて全司法の宣伝、啓蒙、連絡上のビラの貼布を庁舎管理権者の承認にかからしめんとするもので、庁舎管理権の範囲を逸脱し、全司法の活動を妨害せんとするものに他ならない。

(4) 昭和三十一年五月頃、全司法では第十二回全国大会において専従中央執行委員として秋田支部から伊藤、佐々木の両名を選出した。両名とも秋田地方裁判所の職員であつたので、鈴木同裁判所長に対し組合専従のための無給休暇許可申請をなし、同所長からは同年六月始め右支部組合幹部に対し特段の事務上の支障がないから右二名の申請を承認する旨の内意があつたのであるが、同月七日頃被告は同所長に対し、一庁から二名の専従を出すことは事務上に支障をきたすから、既に許可済ならば取消すこと、もし未だ許可していないならば許可しないこととの趣旨の指示を発し、全司法において再三交渉したが、未だに佐々木については許可が得られず、この間においても被告は右裁判所に対し伊藤の申請は承認し、佐々木の申請については承認してはならないとの指示をなしている気配がある。事務処理上の支障の有無は所属上司の判断が最も正確であることが当然であるに拘らず、被告が右の如く秋田地方裁判所長の実情報告をまたずに独自一庁二名以上の専従を許可しないこととの指示を発することは、明らかに全司法の活動を牽制せんがための所為に他ならない。

2 本件不利益取扱の原因となつた原告らの組合活動は雇見習昇任に関する問題であつてその大要は次の如くである。

雇見習に昇任の途を開くことは全司法にとつて多年の懸案であり、過去数年来被告をはじめ各裁判所に対し適当な方策を講ずるよう要求し続けて来たところ、雇見習及び全司法の努力の結果、昭和二十八年五月二日被告は各下級裁判所に指示し、大阪高等裁判所、同地方裁判所、同家庭裁判所では右指示に従つて欠員十七名を補充するため、雇選考試験を実施することを発表した。全司法大阪支部(以下、支部組合という。)では、雇選考に当つて本人の経験を重視し、年齢及び勤務年数の多い者をできる限り優遇して貰いたいとの希望を大阪高等裁判所に申し入れていたのであるが、同裁判所はこれに対し試験は高等学校卒業程度の学力を基準として行い、その成績と勤務成績とを併せて考慮はするが、学力試験において一科目でも四十点以下のものがあれば不合格とし、勤務年数の長短や年齢は顧慮しないと組合の申入れを拒否し、かつ、雇見習に対し全員必ず受験するよう言渡した。ここにおいて、原告らはいずれも支部組合の方針に従い事務雇選考について勤務年数、年齢を重視する措置を大阪高等裁判所当局に採らすべく活動したのであつて、右は組合の構成員として所属組合の意思に従い労働条件の維持改善のためになした正当な組合活動である。

(五)  本件懲戒処分は著しく不当である。

1 原告らには懲戒に値する所為がない。被告が原告らの処分理由として認定した事実は別紙第一ないし第四中各処分の理由と題する項に記載のとおりであるが、右事実について、原告らは以下のとおり主張する。

(1) 原告溝畑馨二(別紙第一)

イ、処分の理由冒頭部分は認める。なお、原告溝畑は被告認定の役職のほか、昭和二十五年四月に支部組合青年部副部長、同二十六年六月に支部組合執行委員、同二十七年五月に支部組合福委員長に就任したことがある。

ロ、同第一について。

(イ)、雇の欠員数及び当局が事務雇選考試験を行う方針であつたことは認めるが、通達関係は知らない。被告認定のような組合の決議及び拡大闘争委員会の方針、穏健派と急進派の対立は否認する(なお、被告が急進派の一人と認定した谷本幸雄は当時休職中であつて、諸活動に参加していない。)。受験資格者の大多数が受験の意思を表明したとの点も否認する。

(ロ) 雇見習昇任試験についての反対闘争の経過は、大要次の如くである。まず、昭和二十八年六月初旬大阪地方裁判所、その管内の簡易裁判所、大阪高等裁判所の各職員を以つて支部組合職場大会が開催され、右大会で支部組合拡大闘争委員会の設置が決定されると共に、「試験による雇、書記官補の選考には反対し、これに代る適正な選考方法を実施せよ。無試験、無条件で雇見習全員を雇にせよ。そのために強力な闘争をする。その具体的な執行方法は拡大闘争委員会に一任する。」旨の決議がなされた。雇見習に対する選考試験の願書締切りは昭和二十八年七月初めであつたが、願書を提出する者がないので、当局は締切期日を同月九日に延期し、その間職制を通じ雇見習に対し願書の提出を強要して来たのであるが、雇見習は同月初めの会合の取り決めにより婦人雇見習の願書を一括して支部組合婦人部に委託し同部で保管することとし、更に、同月八日に至つて組合の方針に従つて受験するか棄権するかいずれの方法も採り得るように一応願書は提出することとし、始めて、願書が一括提出されるに至つた(それでも提出しなかつた者が二名ある。)。同月十一日午後、拡大闘争委員会が開催され、一、既定方針どおり試験には絶対反対する。但し、雇見習の意思は拘束しない。二、雇見習に対しても、無試験選考の目的を達するため受験を拒否するよう説得する。との旨の方針が全会一致で決定されたが、右委員会には被告が穏健派と主張している森田孝行、森口光二も出席しており、右森口は原告溝畑などよりも強硬な意見をのべていた。雇見習が同日中之島公園において会合した事実はあるが、右会合の出席者中に被告主張の者がいたかどうかは知らない。右会合に出席した雇見習は約十名であつて、全員試験拒否の意見に一致し、これに出席していない雇見習をも訪ねて拒否を勧誘すること及び試験当日出勤すれば職制から受験を強要されるから、当日は中央郵便局前に集合して方針を相談することを決定した。而して、右方針はその大綱において拡大闘争委員会の方針に一致していたのである。他方、同日前記拡大闘争委員会散会後、五、六名の闘争委員は前記決定の説得活動の具体策について協議の結果、当日欠席の闘争委員に対し打電して試験当日組合事務所に呼び裁判所入口において説得活動をなすこと及び同月十二日に原告高津和子、同大鹿原義、訴外広岡経樹などが雇見習を訪ねて説得することを決定した。

試験当日の説得活動などに至る経過中右主張に反する事実はいずれも否認する。

試験を受くべき二十五名中十二名が受験しなかつた事実は認める。

(ハ) 森田孝行が声明書を出した事実は認めるが、右は拡大闘争委員会の方針に反した同人の個人的意見発表に過ぎない。

(ニ) 原告溝畑が昭和二十八年七月十四日午前十時から同十二時までの間職場を離れて組合事務所にいた事実は認める。しかし、職場を離れるについては直接の上司たる石倉書記官に前後の経緯を説明しその許可を得ている。また、右組合事務所における会合は拡大闘争委員会であつて、査問委員会ではなく、またそのように称した事実もない。その席上森田孝行委員長が拡大闘争委員会の決議を自ら破つた行為につき非難された事実はあるが、原告溝畑が中心的活動をなした事実はない。森田孝行は自らその非を認めて辞任を申し出で、同委員会は、これを承認し、後任委員長には雇見習らの要望で市道治千代が就任した。要するに、原告溝畑は上司の許可を得て正当な組合活動のために離席したもので、上司に無断で、かつ、正当の事由なく職場離脱したものではない。

ハ 同第二について。

支部組合が裁判所当局の不合理な試験を強行した責任を追及した事実及び十七項目の要求を提出した事実は認める。また、昭和二十八年七月十四日午後零時一五分頃原告溝畑らが大阪高等裁判所事務局長西山要(以下、単に西山局長という。)に面会を求めた事実も認めるが、局長が右面会について三つの条件を付したことは知らない。当日の組合側の交渉態度についての被告主張は否認する。西山局長の退室命令については不知。また、原告溝畑は午後一時五十分頃には右交渉が終了したものとして退席している。従つて原告溝畑は拡大闘争委員の一員として同委員会の決定に従い、西山局長と交渉を行つたもので、不法に局長室から退去しなかつた事実はなく、上司の許可なく、かつ正当の事由なく職場離脱をなしたものではない。

ニ 同第三について。

原告溝畑が被告主張の交渉に参加した事実は認めるが、右については直接の上司たる石倉書記官の許可を得てある。西山局長及び大阪高等裁判所長官安倍恕(以下、安倍長官という。)に対し交渉開始について交渉を行つた事実は認めるが、その交渉態度についての被告主張は否認する。最高裁判所鈴木人事局長来阪の事実は安倍長官からその旨を聞いて始めて知つたが、本件選考試験が被告の指示によるものである以上、原告溝畑ら組合側当事者が人事局長との交渉を求めたものも自然の成行であつた。福井弘が無断で長官室の扉を開けた事実は知らない。原告は上司の許可をえて組合活動のためやむなく離席したのであつて、上司の許可なく、かつ、正当の事由なく職場離脱したものではない。

ホ 同第四について。

原告溝畑らが被告主張の日時安倍長官に交渉を求めたことは認めるが、右はその前日原告溝畑ら組合当事者が面会を求めたのに対し、同長官が翌日の交渉に応ずることを約したによる。安倍長官が廊下において前日の約束を取消す旨を告げたので、原告溝畑ら組合側当事者はその不誠意を責めたが、面会を強要した事実はない。安倍長官は大阪地方裁判所長小原仲と連名の退去命令を読み上げたが、右書面の小原所長名下に安倍長官の印影があつたので、長官は一旦右命令を取消し、やがて小原所長自らも退去するよう告げたので全員平穏禅に退去したのであり、従つて、退去命令から全員退去まで被告主張のような長時間は経過していない。

(2) 原告高津和子(別紙第二)

イ 処分の理由冒頭部分は認める。なお、原告高津は被告認定の役職のほか、昭和二十六年五月支部組合婦人部長兼全司法大阪地連書記長に就任したことがある。

ロ 同第一について。

原告高津が昭和二十八年七月十二日松本美奈子方を訪れ、支部組合の方針に基いて受験しないように説得し同月十三日のピクニツクに誘つた事実は認めるが、その際、虚構かつ不確実のことを告げた事実はなく、右松本が受験せずピクニツクに参加したことはいずれも同人自身の意思によるものであるから、原告高津が受験志望を放棄させたのではない。

ハ 同第二について。

原告高津は昭和二十八年七月十四日の組合事務所における会合に午前十時過頃少時間列席したが直ちに退席して、大阪簡易裁判所内の自席に戻つているから、被告認定のように査問委員会の継続中上旬に無断でかつ正当事由なく職場離脱した事実はない。

ニ 同第三について。

原告高津が被告認定の西山局長との交渉に参加した事実を否認する。原告高津は右ハに述べた如く当日午前の組合事務所における会合を午前十時過ぎ頃退席して直ちに大阪簡易裁判所に戻つたのであり、その後は退庁時刻まで、同庁において執務していた。

(3) 原告大鹿原義(別紙第三)

イ 処分の理由冒頭部分は認める。なお、原告大鹿は被告認定の役職のほか、昭和二十七年六月支部組合青年部幹事、同二十八年五月全司法大阪地連青年婦人対策部長に就任している。

ロ 同第一について。

原告大鹿が組合の方針に基いて、太田勝三及び米田一郎方を訪れ、両名の受験に関する意思を確めた事実はあるが、右両名はいずれも予め受験を希望しない旨を表明していたのであつて、原告大鹿が右両名の受験志望を放棄せしめたとの事実は否認する。原告大鹿が右両名に対し事実に反することを告げた事実は、ないし、右両名を誤信せしめた事実もない。

ハ 同第二について。

原告大鹿が被告認定の会合に出席した事実は認めるが、右は予め直接の上司たる岡本書記官補にその事情を告げ、その許可を得てしたことであり、右会合は正当な組合活動のためになしたのであるから、上司に無断でかつ正当の事由なく職場を離脱したものではない。その他については原告溝畑の処分の理由第一についてと同一の主張をする。

ニ 同第三について。

原告大鹿が被告認定の西山局長との交渉に参加した事実は認めるが、右については前同様岡本書記官補の許可を得ているし、また、右交渉は正当な組合活動のためになしたのであるから、上司の許可なく、かつ、正当の事由なく職場を離脱したものではない。その他については原告溝畑の処分の理由第二と同一の主張をする。

(4) 原告大和千恵子(別紙第四)

イ 処分の理由冒頭部分は認める。

ロ 同第一について。

原告大和は昭和二十八年七月十一日にいかなる方針が決定されたかは知らないで、同月十三日午前九時に出勤し、組合事務所に出頭したところ、拡大闘争委員の一員(氏名不詳)から岡野恵美子を連れて大阪中央郵便局前に来て呉れとの電話連絡を受けたので、その旨を岡野に伝えたところ、同人はかねてより受験の意思がなかつたので、予め帰宅の用意を整え組合事務所に来たので、同人と同道して郵便局前に赴いた。やがて、数名の者が同所に集合し、原告大和はそこで始めてピクニツク行の計画があることを知つた。右の次第で原告大和が岡野と共にピクニツクに赴いた事実は認めるが、同人らをして受験の志望を放棄させたことはない。

ハ 同第二について。

原告大和は昭和二十八年七月十四日午前の組合事務所における会合に出席した事実なく、従つて、職場離脱の事実もない。

ニ 同第三について。

原告大和が昭和二十八年七月十四日午後零時十五分過頃、他の組合役員と共に事務局長室に交渉を求めに赴いた事実は認めるが、同人は約三十分の後、即ち午後零時四十五分頃職務の都合上局長室を退室しているから、被告主張の職場離脱の事実はない。

2 仮に、原告らに懲戒に値する所為があるにしても、被告のなした懲戒処分は著しく不当であつて違法といわねばならない。その理由は次の如くである。

(1) 原告らと同じ全司法の組合員である訴外佐野加寿男は昭和二十七年十二月二十七日付で東京高等裁判所から戒告処分を受けたが、その処分理由としては、同人が昭和二十七年七月十一日午前八時三十分から同九時三十分頃まで正当の理由なく無断で約一時間遅刻したこと、同月十四日午後五時から翌十五日午前八時三十分まで宿直を命ぜられていたに拘らず、その任務を尽さなかつたこと、同月十五日午前八時三十分から午後五時まで休暇願を出しただけで許可なく欠勤したこと、同日午後五時から翌十六日午前八時三十分まで宿直を命ぜられながら、これを怠つたこと、及び同月十六日午前八時三十分から午後五時までの間無断欠勤し、勤務に復帰するよう命ぜられながら、これに応じなかつたことが認定されている。本件処分を右佐野の処分と比較考量すると、同一性質の事案でありながら、処分の種類、程度が著しく異り、本件処分が著しく不当なることが明らかである。

(2) 本件処分理由となつている事実はいずれも雇見習に対する雇選考試験に関する問題を契機として惹起された全司法と大阪高等裁判所との紛争状態中に発生した事実であるところ、昭和二十八年七月十七日の安倍長官と支部組合との間の交渉においてそれまでの両者間の紛争を相互に水に流す旨の話合いがなされている。任命権者たる大阪地方裁判所がその裁判官会議において原告らに対しなんらの懲戒処分もなさないことを相当とする旨を決議し、かつ、なんらの処分もなさなかつたのは、右の如く紛争解決の話合いがなされていたことも一つの原因であつて、仮に原告らに懲戒に値する所為があつたとしても、任命権者がなんら懲戒処分をなさないのに右の如き事情を無視してなした本件処分は著しく不当である。

第三被告の答弁

一、請求の趣旨に対する答弁

請求棄却の判決を求める。

二、請求の原因に対する答弁

(一)  請求の原因第一項は原告溝畑に対する懲戒処分書及び処分説明書送達の日時を除き認める。右送達は昭和二十九年三月六日である。

(二)  同第三項に主張する取消理由は争う。

1 同項(一)について。

一般の労働者が単に労働力を提供し、その対価として賃金支払を受けるのと異り、国家公務員は国家と上命下従の関係に立ち、国民全体の奉仕者として公の利益のため、その全力を尽す義務を負うばかでなく、勤務外の日常生活においても、国民全体の奉仕者たるに相応しないものであるべきことを要求されている。。従つて、国家公務員が憲法第二十八条にいわゆる勤労者中に包含せられるとしても、同条に定める勤労者の権利が公共の福祉のため制約を受くべきことは当然であるばかりでなく、憲法自体がその第十五条第二項において国家公務員は一般労働者と異る立場に立つものであることを規定しているから、その憲法の下における労働関係の法体系において、国家公務員に要求される右特質に相応しい規定として国公法第九十八条の規定を設けることは、むしろ憲法の当然期待しているところであつて、これに牴触する筈はない。

なお、原告らの主張するように、国公法第九十八条が違憲であるとの論から、直ちに、本件処分の根拠法条たる同法第八十二条まで違憲であるということは理由がない。また、原告は臨時措置法の違憲性をも主張しているが、右臨時措置法は一般職公務員の給与に関する法律をも準用することにより、人事院の勧告により一般職公務員についての給与の改訂が行われた場合、裁判所職員もこれと同一の利益を享受し得る措置を講じているのであるから、臨時措置法もまた憲法第二十八条の権利が制限されることによる不利益を予防し、救済するに適当な措置を講じているというべきであつて、原告らの右主張も理由がない。

2 同項(二)について。

被告が原告らを懲戒処分した根拠法条は、臨時措置法によつて準用される国公法第八十四条第二項であるが、同条及び同法第八十五条(人事院が「懲戒手続を進める」といつている。)の解釈上、その正当なることは疑問がない。なお、臨時措置法が国公法第十七条を準用していないのは、最高裁判所は裁判所法第八十条により司法行政上の監督権の内容として当然調査権を有するから、特に国公法第十七条を準用する必要がなかつたが故にほかならない。

3 同項(三)について。

調査をなしていないとの事実はない。被告は裁判所法第八十条による右固有の調査権に基き慎重な調査を経て本件処分をなした。而して、右調査につき原告ら主張の如き法的制約があるとは解し難く、文書、関係人の供述その他一切の資料によつて自由にこれを行い得るものと解される。本件については大阪所在の各裁判所から多数関係人の供述を詳細に録取した文書の送付を受け、また、本件処分の理由となつた事実についても、その都度詳細な報告を受領しており、これらを慎重に検討した上、当時大阪高等裁判所事務局長の職にあつた西山要について事実及びその後の調査の事情に関し詳細の説明を求めた結果、本件処分を行うべきものと認めたのであつて、必要かつ充分な調査を遂げている。従つて、その間なんら違法な点は存在しない。

4 同項(四)について。

本件懲戒処分が憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項に違反するとの主張は争う。本件処分は原告らが別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項に記載した各所為をなし、これが同根拠法規と題する項に掲記した法規に牴触するが故になされたものであつて、原告らの組合活動を理由とするものではない。

なお、原告ら主張のいわゆる四号調整問題は本件処分後の事実で、かつ、本件とは全く無関係な事実であり、その大要は以下のとおりである。即ち、裁判所職員の待遇改善については被告は常に多大の関心を持つていたが、既に法務省職員などについてはいわゆる四号調整が実施せられていたので、被告としては、若し、裁判所職員からこれと同一措置が要望せられた場合には、その実現をはかるべく、関係当局とも折衡した結果、その実現は必ずしも困難ではないとの見通しを得たので、たまたま、高等裁判所事務局長会同の際に職員にこれを周知せしめその意見を求めることを要望したが、全司法が右調整による昇給を欲しないことが判つたので直ちにこれが推進をはかることを取り止めたまでのことである。被告の真意は専ら職員の待遇改善にあり、全司法の解体を策したものでもなければ、また全司法の解散を求めたものでもない。既に、法務省職員に適用せられているとおり、右の調整を受ける者が組合を退くことにより、組合結成を禁ぜられている職種の公務員と実質上同様の地位に立つならば、調整が可能であるとの見通しを明らかにして職員の意見を求めたにすぎず、脱退の要求をなしたこともなければ、全司法の解散を求めたこともない。

原告らがその組合活動として主張する事実中、被告の指示に従い、大阪所在の各裁判所が雇選挙考試験の実施を発表したこと、支部組合が経験を重視せられたい旨の希望を申入れていたことは争わないが、その余の事実は争う。本件処分理由は別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項に記載されているとおりであつて、右の如き組合の意見の申入れなどの活動を理由とするものではない、而して、支部組合も受験については受験資格者の意思を尊重し、その意思に依らしむる方針を採つていたのであるから、受験拒否を目的とする原告らの一連の行動は組合の意思に反する個人的行動にすぎず、かつ、国公法に牴触する違法行為であるから、憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項違反となる余地はない。

5 同項(五)の主張も争う。

原告らの任命権者たる大阪地方裁判所がその裁判官会議において原告らの本件各所為について原告らに対しなんらの処分もなさないことを相当とする旨の決議をなしている事実はあるが、原告らの処分理由は別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項に記載されたとおりであつて、右記載の各所為に鑑みるときは本件処分は極めて妥当である(なお、原告溝畑に対する処分理由は別紙第一の処分の理由と題する項第一ないし第四に記載した正当事由に基かない職場離脱であつて、右記載事実のうち、雇見習に対し受験の志望を放棄せしめたことに関するのは、右の職場離脱に至る事情として記載したものである。)。

第四証拠関係〈省略〉

理由

第一、原告らがいずれも大阪地方裁判所を任命権者とする裁判所職員で、原告溝畑は裁判所書記官補、原告大鹿は雇、原告大和はタイピストであつて、いずれも大阪地方裁判所に勤務するもの、原告高津は裁判所書記官補であつて大阪簡易裁判所に勤務するものであつたところ、被告が原告らに対し昭和二十九年三月六日付をもつて裁判所職員臨時措置法(以下、単に臨時措置法という。)、国家公務員法(以下、国公法という。)第八十二条第一ないし第三号による懲戒処分として、免職の処分をなしたことは当事者間に争いがない。

第二、取消理由に対する判断

原告らは右懲戒処分の取消を請求するので、その主張する取消理由につき順次判断する。

一、国公法が憲法に違反するとの主張について。

原告らは国公法第九十八条を中心とする一連の法規が憲法に違反するが故に、国公法は全体として違憲、無効であると主張する。しかしながら、憲法第九十八条第一項は憲法に違反する条項を含む法律がすべて法律全体として無効となることを規定したものでなく、憲法に違反する限度においてその全部または一部が効力を有しないことを規定した趣旨であるから、仮に、原告らが主張する如く、すべての国家公務員について一律に労働協約締結権を否認し争議行為を禁止する国公法第九十八条が憲法に違反するとの理由により、当該法条が憲法に反する限度において無効となることがあるのは兎も角として、このために原告らに対する懲戒処分の根拠法規たる国公法第八十二条が無効となるとは考えられない。また原告らは臨時措置法についても同様の理由により全体として無効であることを主張しているが、右法律についても、右同様仮に原告ら主張の如くであるとしても、それは、右国公法第九十八条を準用する限度において違憲、無効であるにとどまるものというべきである。

原告らの右主張は主張自体理由がない。

二、被告は原告らに対し懲戒処分をなす権限を有しないとの主張について。

国公法第八十四条第二項に懲戒手続に付するというのは原告らの主張するように任命権者の懲戒権の発動を促すことができるとの趣旨ではなく、その事案について、懲戒事由存否の確認、処分の種類及び程度の決定、処分の実施など懲戒処分に関する一連の手続を採ることができることを意味するものと解せられるから、同項は同条第一項の任命権者の懲戒権と並列的に人事院もまた職員に対して懲戒権限を有し、これを行使できることを定めたものと解するのが相当である。けだし、国公法第八十四条第一項からは原告ら主張のように懲戒権が専ら任命権者のみに属する趣旨を窺うことができず、従つて、同条第二項において並列的に懲戒権者を定めても、なんら第一項に牴触するものではないからである。

更に、原告らは臨時措置法は国公法第十七条を準用していないから、被告は国公法第八十四条第二項にいわゆるこの法律に規定された調査を行う法的根拠を欠き、従つて、被告は懲戒処分をなす権限を有しないと主張する。しかしながら、裁判所法第八十条第一号によれば、被告は司法行政上各下級裁判所及びその職員について監督権限を有し右権限は、法律に特別の定ある場合を除いて、その内容として、当然人事行政に関する事項一般についての調査権を包含すると解せられる。勿論、右の監督権は各裁判所の裁判官の裁判権行使に影響を及ぼし、または、これを制限すべく行使することは許されないことは、同法第八十一条の明定するところであるが、裁判所職員の違法行為に対する調査、処分などが裁判官の裁判権の行使と無関係であること明白であるから、右規定の存在をもつて前記調査権の存在を否定すべき論拠となすに足りない。従つて、被告は裁判所職員の違法行為につき必要なる調査をする権限を有するものというべきであるので、原告らのこの点の主張も理由がない。

三、懲戒処分に必要な調査を経ていないとの主張について。

まず、国公法第八十四条第二項にいう「この法律に規定された調査」というのが、同法中のいずれの調査を指すかであるが、原告らの主張するように、これを同法第九十一条に規定された調査と解する説もないではない。しかし、右の規定は既に行われた処分についての調査を定めたもので懲戒処分を受けた職員の存在を前提としての調査手続を定めているものであるから、右国公法第八十四条第二項の場合のように処分に先行する調査には適合しないといわねばならず、このことと、人事院が行政庁における人事に関する最高機関であつて、各省の人事行政に対する一般的監督権を有するという同法の建前及び同法中人事院の調査を定めた規定が右第九十一条第一項の外には、同法第十七条のみであることを併せ考えれば、右の国公法第八十四条第二項にいわゆる調査は同法第十七条に規定された人事院の人事行政上の調査権限に基く調査を指すものと解せざるを得ない。而して、人事院の右権限に相当する権限は裁判所法第八十条により被告に対して与えられていることは右二に述べたとおりである。

原告らは人事院(従つて、本件の場合被告、以下同じ。)が懲戒手続に付するについてその調査は、任命権者の判断を覆えすに足る新たな資料を集める程度の調査たるを要し、任命権者が判断の基礎とした資料と同一の資料に基いて判断する限りにおいては、任命権者の判断を尊重し、これと異る判断をなすことができないとの法的制約が存在すると主張する。しかしながら、右の見解は国公法第八十四条の規定を、任命権者の懲戒権のみを原則とし、ただ例外的にのみ人事院が懲戒権を行使しうる旨を定めたと解することから出発すると窺われるところ、国公法第八十四条第二項は、その第一項に規定する任命権者の懲戒権とは別個並列的に人事院もまた懲戒権を行使できることを定めたものであること右二に述べたとおりであるから、その立論の前提において誤つている。のみならず、当該職員の任命に関与していない人事院といえども充分なる調査をなせば、その判断に過誤なきを期し得るのみならず、人事院はその所管する統一的な人事行政の必要上、任命権者とは異る観点から懲戒処分の必要を認める場合も予想せられるのであるから、人事院は同一の資料に基く場合といえども、任命権者の判断とは関係なく、当該職員を懲戒処分に付するか否か独自に判断し得るものと解するのが相当である。而して、被告がその調査権に基いて聚集した資料により本件各懲戒処分をなしたことは弁論の全趣旨において明らかであるので、原告らのこの主張も理由がない。

四  本件懲戒処分は憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項に違反するか、または著しく不当であるとの主張について、

原告らは本件懲戒処分はそれぞれ別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項に記載した所為に藉口しているが、実は原告らが全国司法部職員労働組合(以下、全司法という。)の組合員としてなした正当な活動を抑圧するためになした不利益取扱であると主張し、また、原告らには懲戒免職に値する所為がないと主張する。

(一)  そこで、右二つの主張について判断すべく、まず処分の理由となつた原告らの各所為の有無につき検討する。

1 雇見習昇任試験実施などをめぐり右試験に反対する裁判所職員によつてなされた反対運動の経緯、

昭和二十八年六月現在大阪高等裁判所及び同地方裁判所に雇の欠員十七名があり、これを補充するため右両裁判所において右両裁判所及び大阪家庭裁判所に勤務する雇見習に対し事務雇選考試験を行うこととなつたが、これに対し全司法大阪支部(以下、支部組合という。)は選考に当つては経験を重視されたい旨の希望を申入れたこと、同年七月十三日右選考試験が実施されたが、試験を受くべき二十五名の雇見習中十二名が受験しなかつたこと、翌十四日午前大阪地方裁判所構内の支部組合事務所において支部組合員らの会合が行れたこと、及び同日午後支部組合員らが大阪高等裁判所事務局長西山要(以下、西山局長という。)に面会を求め、また翌十五日及び十六日午前大阪高等裁判所長官安倍恕(以下、安倍長官という。)に交渉を求めたことはいずれも当事者間に争いがない。右争いのない事実と成立に争いのない甲第三十一号証、乙第一ないし第十号証、第十二ないし第四十号証、第四十二ないし第四十四号証、証人西山要、同塩谷公男、同古元秀明、同大川県四郎の各証言を綜合すれば、右反対運動の経緯は大要以下の如くであつたことが認められる。

(1) 昭和二十八年六月大阪高等裁判所及び同地方裁判所においては、従来法規上非常に困難であつた部内雇見習からの雇昇任を緩和する趣旨の昭和二十八年最高裁判所人任第八九〇号通達に則り、当時における雇の欠員十七名を補充するための事務雇選考試験を行い、これにより裁判所職員の待遇改善に資することとし、右試験実施を同年六月三十日に発表した。従来から雇見習に昇任の道を開くべく裁判所当局と折衝を重ねていた支部組合は右試験実施に必ずしも賛成ではなく、拡大闘争委員会を組織し裁判所当局に対し、しばしば試験によらない昇任を行うよう申入れていたが、同年七月十一日の拡大闘争委員会において、勤続年数の多い雇見習でも合格できる見通しがつかなければ、試験による選考には反対し、この方針に基いて雇見習を説得するが、雇見習である各個人の受験の意思であれば、敢えて反対せず各個人の自由意思に委ねるとの方針を最終的に決定した。一方、裁判所当局は支部組合の主張するが如き試験選考の方法によらないで古参者を順次昇任させることは法規上不可能なることを説明し、雇見習に対し極力受験を勧めた結果、雇見習も再三会合して協議していたが、同年七月九日の願書締切には三十四名の受験資格者(うち二名は老齢者)中三十名が受験を申出でた。ところで、同年七月十一日昼頃より支部組合内で右試験実施に強硬に反対する者達は受験資格者らを大阪高等裁判所会議室に集め、同月十三日に迫つた右試験に対する態度について協議したが、意見の一致に至らなかつたので、同日午後一時ないし一時三十分頃、右強硬反対者である市道治千代、福井弘、三根勝らは中之島公園に集合して協議した結果、前示昇任試験を全員拒否せしめるため、各受験志望者に受験拒否を勧誘するべく、各自分担して翌十二日(日曜日)に各受験志望者の私宅に訪問して今回の昇任試験は全員受験しないこととなつた旨を伝達すること及び試験当日の朝は受験志望者を大阪中央郵便局前に集合せしむることを定めた。右決定に基き、翌十二日右強硬派組合員らは分担して受験志望者らの各私宅を訪問するとともに、試験当日たる十三日朝は大阪高等裁判所同地方裁判所庁舎前において登庁する受験志望者らに受験拒否を勧誘した結果、前示三十名の志望者中筆記試験を免除された五名を除き二十五名が当日の筆記試験を受くべきところ、十二名が欠席するに至つた。そしてその一部は志望者全員が受験志望を放棄したものと誤信し、右強硬派組合員らの指示に従つて十時頃までに大阪中央郵便局前に集合する者十名に及び、同所から前示福井弘引率の下に清荒神へピクニツクに赴くという事態が発生した。

(2) 右の事態を知つた西山局長はこれを同日支部組合委員長森田孝行、執行委員大川県四郎、同高田静雄に告げて非難したところ、森田孝行は始めて右強硬分子の行動を知り、その活動は組合の決定した方針と異ることを組合員に知らせるため、同日夕刻、支部組合の決定を無視して一部組合員が受験志望者の受験を強制阻止したことは執行部の存在を無視し、健全な組合活動を破壊するものであるとのであるとの趣旨の右行動を批判する声明書(甲第三十一号証)を配布したのであるが、これに端を発し、同日夜右森田孝行とその考を同じくする森口光二が前示支部組合事務所などにおいて強硬派組合員らから右声明書に関する詰問と若干の暴行を受け、また翌十四日には午前九時頃から同十二時頃に至る間、支部組合事務所に拡大闘争委員らが参集し、右森田孝行、高田静雄、大川県四郎、森口光二を査問する会合が行われ、その席上森田孝行は支部組合委員長を辞任し、代つて、市道治千代がこれに就任した。

(3) 支部組合は前示昇任試験の問題とは別個に、かねて大阪高等裁判所長官に対し、庁婦と小使などの差別を廃止して廷吏一本にせよ外十六項目に亘る職員の待遇改善に関する要求事項を提出していたところ、前同日午後二、三十名の支部組合員らは右に対する回答を求めて西山局長室に参集した。西山局長は局長室が三坪程度で手狭であるため、面会の人数を七名に制限し、なお、右参集者中に裁判所職員に非ざる中田四一が加わつていたので、右は大阪高等裁判所が定めた大阪支部組合事務所使用規定に違反して右裁判所に届出のない者であるから、退室するように告げ、更に西山局長は同日午後一時の電車で奈良に公務出張の予定であつたので、面会期間を三十分に制限する旨を告げたが、参集した組合員らは人数及び時間の制限に反対し、また、右中田四一も西山局長の要求に応ぜず、加えて参集者らは、当日回答すべき前示要求事項とは無関係な前示昇任試験問題に関し、十二名の受験志望者が欠席したことは裁判所側の責任であるとして西山局長を難詰し始めた。そこで、局長は右参集者らに真面目に話合いをなす誠意なきものと認め、同日の面会を取り止め、全員に退室するよう命じたが、参集者らは右命令にも応じないので、止むを得ず、午後零時四十分から約一時間に亘り前示要求事項についての回答をなし、なお公務出張の旨を告げ解散退室されたい旨を述べた。しかし参集者らはなおも西山局長を悪罵し退室する模様がないので午後一時五十分頃更に全員の退室を命じたが、参集者らは右命令にも拘らず退室せず、遂に午後二時二十分頃西山局長自ら退室するの止むなきに至らしめた。

(4) 翌十五日午前十時頃約二十名の支部組合員らは大阪高等裁判所長官室前廊下に集合し、前示雇見習試験の問題及び前示要求事項に関し安倍長官に面会を求めた。西山局長は試験に関しては面会の必要はないし、右要求事項に関しては既に回答済であるから、会見には応じられない旨を述べ、面会を拒否したが、右参集者らは容易に納得せず、安倍長官との面会を執拗に要求して西山局長との間に押問答が繰返され、喧噪を極めた。当日安倍長官は折から来阪中の最高裁判所人事局長鈴木忠一と人事問題に関し協議中であり、同人事局長は同日午後零時三十分大阪発の列車で帰京の予定であつたので、右参集者の要求に応じて面会することは不可能な状況にあり、かつ、右の喧噪なる態度により右協議が著しく妨げられたため、午前十時四十五分頃安倍長官自ら室外にでて右の事情を告げ、午後一時から面会するべく了解を求めたのであるが、参集者らは即刻面会せよと強硬に主張し、なおも喧噪を極めた。安倍長官は止むなく午前十一時頃参集者らに対し口頭で退去命令を発したが、参集者らはこれに応ぜず、一部の者は廊下に坐り込みを始める有様であつた。午前十一時三十分頃右参集者の一人福井弘は安倍長官及び西山局長が前記人事局長と協議中である長官室の扉を無断で開き、室内に右人事局長を発見するや、人事局長に対し面会を求めた。かくして、人事局長は止むなく午前十一時四十分頃から午後零時十分頃まで右参集の組合員らと面会したのであるが、このため安倍長官と人事局長との前示協議は更に妨害された。

(5) 翌十六日裁判所当局が午前九時三十分より大阪高等裁判所長官室の隣にある同庁会議室において、前示昇任試験の面接試験を実施中であつたところ、午前十時十分頃十数名の組合員らは長官室前の廊下に参集して安倍長官に対し面会を申し入れた。同長官は直ちに総務課長をして本日は所用のため面会できないから、明十七日午後面会する旨を伝達せしめたのであるが、参集者らはこれを了承せず、たまたま廊下に出た長官に対し面会を強要した。長官は更に右参集者らに対し、本日は会議室において面接試験を実施中であり、廊下で多人数が集合して騒げば右試験が妨げられるから、面会は明十七日にされたい旨を告げたが、参集者らは執拗に同日面会するよう要求し、数名の組合員らは長官室に戻つた安倍長官を追つて無断同室に立ち入り更に面会を強要した。そこで午前十時四十五分安倍長官及び大阪地方裁判所長小原仲は参集者全員に対し職場に復帰するよう命令し、参集者らは午前十一時三十分頃に至り漸く退散した。

右認定に反する証人木村喜光、原告溝畑馨二、同大鹿原義(一回)同大和千恵子、同高津和子(一、二回)の各供述は措信しない。

2 本件処分の理由となつた原告らの所為はいずれも右経緯の間におけるものであつて、各原告らの所為につき以下の如く認定できる。

(1) 原告溝畑馨二

イ 処分の理由第一について

原告溝畑が昭和二十八年七月十四日午前十時から同十二時までの間、勤務時間中にも拘らず、前記―(2)認定の支部組合事務所における拡大闘争委員会に出席していた事実は当事者間に争いがない。

原告溝畑は右職場離脱については上司たる石倉書記官の許可を受けていると主張するけれども、原告溝畑が右石倉の許可を受けた事実を認めるに足る証拠はないのみならず、証人石倉保男の証言及び原告溝畑馨二本人尋問の結果によれば、右石倉が当時大阪地方裁判所刑事第二十部書記官室において最上席の書記官であつた事実は認められるが、同人が原告溝畑の職場離脱につき許可を与える権限を有していた事実は認められないから、原告溝畑の右主張は理由がない。

また、原告溝畑は右会合に出席したことは正当な組合活動であると主張するが、組合活動は勤務時間外になさるべきが原則であるので、別段の職場慣行その他職場離脱について権限ある者の承認のない限り正当な組合活動ということはできない。

よつて、原告溝畑は前示時間中なんら正当の事由なく職場を離脱したものというべきである。

ロ 同第二について

原告溝畑が前記1(3)認定のように昭和二十八年七月十四日午後零時十五分頃から大阪高等裁判所事務局長室において西山局長に面会を求めた支部組合員らの一員として、これに参加した事実は当事者間に争いがない。而して、右争いのない事実と前顕乙第四十四号証、証人西山要の証言を綜合すれば、原告溝畑は前記1(3)認定の西山局長が退室命令を発出した同日午後一時五十分頃以後も右局長室にあつて退室せず、最も活動的な一員として中心的活動をなし、同日午後二時二十分頃まで自己の職場を離脱していた事実が認められる。

右認定に反する原告溝畑馨二本人尋問の結果は措信しない。

右の如き勤務時間中に職場を離脱しての活動は正当な組合活動とは認められないし、その他右職場離脱につき上司の許可その他の正当の事由があつた事実を認めるに足る証拠はない。

よつて、原告溝畑は右午後一時五十分頃より同二時二十分頃まで上司の許可なく、かつ、なんら正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものというべきである。

ハ 同第三について

原告溝畑が昭和二十八年七月十五日午前十時頃以降その職場を離れて前記1(4)認定の交渉に参加していた事実は当事者間に争いがなく、右交渉における参集した組合員らの穏当を欠く交渉態度は前記1(4)に認定したとおりである。

而して、安倍長官が右組合員らに対し面会はできない旨告げたことは前同所において認定したとおりであるから、勤務時間中における右の行為を正当な組合活動ということができないこと勿論であり、また、原告溝畑は右職場離脱について上司たる石倉書記官の許可を受けている旨主張するが、右石倉書記官に職場離脱を許可する権限あること、及び原告溝畑が右石倉の許可をえて右交渉に参加したことについてはいずれもこれを認めるに足る証拠がないこと前示イの場合と同様である。

よつて、原告溝畑は前記1(4)認定の安倍長官が午後一時に面会する旨告げて午前十時四十五分頃から前同所認定の人事局長が面会を許容した午前十一時三十分頃までの間、上司の許可なく、かつ、なんら正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものである。

ニ 同第四について

原告溝畑が昭和二十八年七月十六日午前十時十分頃以降その職場を離れて前記1(5)認定の安倍長官に対する交渉に参加していたことは当事者間に争いはなく、右交渉における参集した支部組合員らの態度並びに安倍長官及び大阪地方裁判所長小原仲が職場復帰命令を発出した事実は前同所に認定のとおりである。

而して、前顕乙第四十四号証によれば、原告溝畑は前同所に認定の長官室に無断立入つた数名の組合員らの一員であつた事実及び前示退去命令が発せられた午前十時四十五分頃以後も午前十一時三十分頃まで長官室附近にあつた事実が認められる(原告溝畑馨二本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない)から、原告溝畑は前示時刻の間上司の許可なく、かつ、正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものというべきである。

(2) 原告高津和子

イ 処分の理由第一について

原告高津が昭和二十八年七月十二日大阪高等裁判所雇見習松本美奈子をその自宅に訪れ受験しないように説得し同月十三日のピクニツクに誘つた事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と前顕乙第二十八ないし三十号証を綜合すれば、右松本美奈子は前示昇任試験を受験する意思を有して右七月十二日は自宅に在つて勉強していたところ、同日午後六時半頃同人方を訪れた原告高津は「組合では十一日午後の決議で、試験を受けさせないことに決めた。試験をどうしても受けるという二、三人はその侭にしておいて、その他の人には右組合決議の趣旨を連絡して受けないようにして貰つた。あなたも受けないでくれ。試験を受けないときにはそれによつて不利益を受けないように組合で責任をもつ。どうしても受けるという二、三人が試験を受けても他の者が試験を受けなければ日延になるか駄目になつて全員採用されることになる。連絡のとれない人に対しては試験当日門のところで張り番をして皆受けないように連絡するから。」との趣旨を申し述べ、容易に受験の意思を変えなかつた松本美奈子に対し同日午後九時に至るまで執拗に受験拒否を勧誘したので、その結果遂に松本美奈子をして真実二、三名しか受験しないものと誤信せしめ、なお、試験当日登庁しても更に説得を受けるので、これを押し切つてまで受験する意思を喪失させるに至らしめ、試験当日午前八時頃、梅田地下劇場入口階段附近で原告高津を待ち合わせるよう約束させたこと、同日同原告は同所に来た松本を伴つて大阪中央郵便局前に赴き、福井弘の引率する前記1(1)認定の清荒神へのピクニツクに参加するに至らしめた事実を認めることができる。而して、原告高津の松本美奈子に対し申し述べた右組合の決定なるものは、さきに1(1)において認定した支部組合拡大闘争委員会の決定した方針と相違するものであり、また、受験を拒否することにより全員無試験で昇任するようになるとの言葉は極めて不確実な事実を告げたものであるから、原告高津は右松本美奈子に対し組合の決定した方針に違反し、虚構かつ不確実のことを告げて、その受験の志望を放棄させたものといえる。

成立に争いのない乙第十一号証記載、証人松本美奈子の証言及び原告高津和子本人尋問(第一回)の結果中右認定に反する部分は措信しない。

ロ 同第二について

原告高津は前記1(2)に認定した昭和二十八年七月十四日午前九時頃から同十二時頃まで支部組合事務所において行われた拡大闘争委員会に午前十時過頃小時間列席したのみであると主張する。

しかしながら、前顕乙第三号証及び第二十五号証に証人中村弥一の証言及び原告高津和子本人尋問(第二回)の結果により原告高津が作成したメモを中村弥一が筆写したもので同一内容を有すると認められる乙第四十五号証を綜合すれば、原告高津は前記会合の終了するまでこれに参加していたものと認められる。原告高津和子本人尋問(第一回及び第二回)の結果中右認定に反する部分は措信しない。

右事実によれば原告高津は右会合出席時間中正当の事由なく職場を離脱したものというべきである。

ハ 同第三について

原告高津は昭和二十八年七月十四日午後西山局長室に赴いた事実を否認するところ、原告高津和子本人尋問(第一回)の結果により原本の存在が認められ、かつ、方式及び趣旨により真正な公文書と推定されるところの甲第三十二号証の一ないし十三によれば、原告高津は同日午後一時から大阪簡易裁判所法廷において書記官補として即決和解事件十三件に立会つていた事実が認められるから、被告が原告高津の処分理由第三において主張する支部組合員らによる西山局長との交渉(前記1(3)認定の事実)には原告高津は参加していなかつたものというべきである。

右認定に反する証人西山要の証言、乙第四十四号証の記載は措信しない。よつて、処分理由第三は原告高津に対する処分理由として失当である。

(3) 原告大鹿原義

イ 処分の理由第一について

原告大鹿が太田勝三及び米田一郎方を訪れた事実は当事者間に争いがなく、右事実と前顕乙第十八号証、第二十一号証及び第二十七号証を綜合すれば、原告大鹿は前記1(1)に認定した昭和二十八年七月十一日午後の中之島公園における協議に基き、大阪地方裁判所雇見習木村喜光と共に、翌十二日午後七時頃雇昇任試験につき受験の意思を有していた大阪地方裁判所雇見習太田勝三をその自宅に訪れ、「十一日午後三時頃中之島公園で雇見習の会合が行われ、その席上昇任試験は全員拒否することに決まり、居合わせた者が各班に分れてこの決議を知らない人の家を訪れることに決まつた。それ故、十三日(試験当日)は午前八時頃中央郵便局前に集つてほしい。」との趣旨を申し述べて、右太田をして全員受験を拒否するものと誤信させて受験を放棄させ、次いで右太田を伴つて同じく受験の意思を有していた同裁判所雇見習米田一郎の自宅を訪れ、右米田に対しても、「十一日に試験拒否の決議をしたから、十三日には八時頃中央郵便局前に集つてくれ。」との趣旨を申し向け、右米田をして受験志望者らが受験拒否の決議をしたものと誤信して受験志望を放棄させたこと、右太田、米田両名は原告大鹿の指示に従い翌十三日午前八時過頃大阪中央郵便局前に集合し、福井弘の引率する前記1(1)認定の清荒神へのピクニツクに参加した事実を認めることができる。

証人太田勝三の証言及び原告大鹿原義本人尋問(第一回)の結果中右認定に反する部分は措信しない。

ロ 同第二について

原告大鹿が昭和二十八年七月十四日午前九時頃から同十二時頃までの間、支部組合事務所において行われた前記1(2)に認定の拡大闘争委員会に出席した事実は当事者間に争いがない。

原告大鹿は右出席については上司たる岡本茂書記官補の許可を受けていると主張するけれども、原告大鹿が右出席について岡本の許可を得た事実を認めるに足る証拠はないのみならず、証人岡本茂の証言によれば、同人が当時大阪地方裁判所刑事第二十四部書記官室において最上席であつた事実は認められるが、同人が原告大鹿の職場離脱につき許可を与える権限を有していた事実は認められないから、原告大鹿の右主張は理由がない。

また、原告大鹿は右会合に出席したことは正当な組合活動であると主張するが、勤務時間中に職場を離脱しての出席である以上、これを正当な組合活動ということはできない。

よつて、原告大鹿は前示時間中なんら正当の事由なく職場を離脱したものというべきである。

ハ 同第三について

原告大鹿が前記1(3)認定のように昭和二十八年七月十四日午後大阪高等裁判所事務局長室において西山局長に面会を求めた支部組合員らの一員として、これに参加した事実は当事者間に争いがない。而して、右争いのない事実と前顕乙第四十四号証、証人西山要の証言を綜合すれば、原告大鹿は前記1(3)認定の西山局長が退室命令を発出した同日午後一時五十分頃以後も右局長室にあつて退室せず、同日午後二時二十分頃まで自己の職場を離脱していた事実が認められる。

原告大鹿原義本人尋問(第一回)の結果中右認定に反する部分は措信しない。右の如く勤務時間中に職場を離脱しての活動は正当な組合活動とは認められないし、また、岡本書記官補の許可があつたとの原告大鹿の主張に対する判断は右ロにおいて述べたと同様であり、その他右職場離脱につき正当の事由があつた事実を認めるに足る証拠はない。

よつて、原告大鹿は右午後一時五十分頃より同二時二十分頃まで上司の許可なく、かつ、なんら正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものというべきである。

(4) 原告大和千恵子

イ 処分の理由第一について

原告大和が昭和二十八年七月十三日朝大阪地方裁判所雇見習岡野恵美子と同道して大阪中央郵便局前に赴き、更に、右岡野と共に清荒神にピクニツクに赴いた事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と前顕乙第二十二、第三十四、第三十七号証、証人岡野恵美子の証言、原告大和千恵子本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)を綜合すれば、原告大和は前示昇任試験の当日たる昭和二十八年七月十三日午前九時過頃支部組合事務所において、かねて受験願書を提出し受験の意思を有していた同裁判所雇見習岡野恵美子に対し訴外三根と共に「皆試験を受けないのだから、あんたも受けないでくれ」との趣旨の虚構の事実を申し向けて受験拒否を勧誘し、右岡野をして受験する者はないものと誤信して受験志望を放棄させた上、同人を伴つて大阪中央郵便局前に到り、同所から岡野のほか大阪高等裁判所雇見習上原孝子、同藤田昌子らを引率して清荒神に赴き、同所で先行した福井弘引率の他の雇見習らと合流した事実が認められる。

原告大和は右岡野を大阪中央郵便局前に同行するについては同所より清荒神に赴く計画があることなど全く知らず、ただ、拡大闘争委員の一員から岡野恵美子を連れて大阪中央郵便局前に来てくれとの電話連終を受けたから、右の所為にでたにすぎないと争うが、前顕乙第十三、第十四、第十六及び第二十七号証によれば、受験志望者に受験拒否を勧誘するための前示自宅訪問の計画及び試験当日午前八時に受験志望者を大阪中央郵便局前に集合せしめピクニツクに赴く計画を定めた昭和二十八年七月十一日午後零時すぎの大阪地方裁判所会議室での会合及び同日午後一時半頃からの大阪市内中之島公園音楽堂における会合につき原告大和はそのいずれにも参加していた事実が認められるから、原告大和はピクニツク行きの計画に賛同し、その実行行為として右岡野を誘い出し、以つて、それ迄受験を希望していた岡野をして、その受験志望を放棄せしめたものといわざるをえない。

証人岡野恵美子の証言及び原告大和千恵子本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

ロ 同第二について

原告大和は昭和二十八年七月十四日午前の支部組合事務所における会合に出席した事実を否認するが、前顕乙第二十五、第四十四及び第四十五号証によれば、原告大和が前同日午前九時頃から同十二時頃までの間、前記1(2)認定の支部組合事務所における拡大闘争委員会に出席していた事実が認められる。

証人桑原昌子の証言及び原告大和千恵子本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

右事実からすれば、原告大和は右会合の行われた前示時間中その職場を離脱していたものというべきで、勤務時間中の右職場離脱につき正当の事由のあつたことについて別段の主張立証のない本件では右離脱は不当のものという外はない。

ハ 同第三について

原告大和は昭和二十八年七月十四日午後零時十五分頃大阪高等裁判所事務局長室に交渉に赴いた事実はこれを認めるが、同四十五分頃職場に帰つたと主張し、職場離脱の事実を否認する。しかしながら、前顕乙第四十四号証及び証人西山要の証言を綜合すれば、原告大和は同日午後二時二十分頃まで右事務局長室を退出せず、同室にとどまつていた事実が認められるところ、同日午後一時五十分頃西山局長が参集している支部組合員らに対し退室を命令した事実は前記1(3)に認定したとおりであるから、原告大和は右退室命令が発出せられた時刻たる同日午後一時五十分頃以後右退出時刻たる午後二時二十分頃まで自己の職場を離脱していたものといわねばならない。

証人塩谷公男、同古元秀明、同清水一子、同桑原昌子の各証言及び原告大和千恵子本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

右職場離脱につき正当の事由のあつたことについては、原告大和のなんら主張立証しないところである。

3、以上のとおり、原告高津につき処分の理由第三の事実は、これを認めることはできないが、原告ら四名につきその余の処分の理由はいずれも被告主張のとおり認定することができる。そして右各所為のうち、職場離脱の点はそれぞれ臨時措置法によつて裁判所職員に準用せられる国公法第九十八条第一項、第九十九条、第百一条第一項に違反し、同法第八十二条第一号、第二号、第三号に該当し、また、公務員が昇任試験を受験することは、特別権力関係に基く公法上の権利であり、他の公務員がこの受験を故意に妨害する如きことは、公共の利益に反し、かつ官職の信用を傷つけるものというべきであるから、他人の受験志望を放棄せしめた点はそれぞれ同法第九十六条及び第九十九条に違反し、同法第八十二条第一号、第三号に該当するものというべきである。

(二)  被告のなした懲戒処分が著しく不当であるが故に違法であるとの主張について

一般に、法規上の懲戒理由に該当する所為をなした公務員に対し、その懲戒権者がその懲戒権限を発動するか否か、懲戒処分のうち、いずれの処分を選ぶべきかは社会通念上著しく妥当を欠き懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任せられているというべきである。而して、本件において、原告ら四名にいずれも懲戒理由に該当する所為のあること前述のとおりであり、原告高津、同大鹿、同大和の所為のうちにはいずれも単なる職場離脱のほか、前示昇任試験につき受験の志望を有していた裁判所雇見習らをして全員受験を拒否するものと誤信せしめて、その受験志望を放棄せしめ、それら雇見習が雇に昇任せられる機会を失わしめた情状悪質なる所為が含まれており、また、原告溝畑はその職場離脱が再三かつ長時間にわたる上、西山局長からの退去して職場に復帰すべき旨の命令にも拘らず、なお支部組合員らが職場離脱を続けるにつき、最も中心的な活動をなしていたこと前示のとおりであるから、原告らの主張するように東京高等裁判所において訴外佐野加寿男の職場離脱の所為につき、免職の懲戒処分はとられず、戒告処分がとられたに過ぎない事例があるからといつて、この例をもつて処分の標準が示されたものといい得ないこと勿論であつて、被告のなした本件各懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠くものとは認められない。

また、更に原告らは昭和二十八年七月十七日安部長官と支部組合との間の交渉において、それまでの両者間の紛争を相互に水に流す旨の話合いがなされ、同長官において、この紛争に関連してなされた違法行為を看過する意思を有していたのであるが、任命権者たる大阪地方裁判所が原告らに対しなんらの懲戒処分もなさなかつたのも、このような経緯によるのであつて、このことからしても本件処分は妥当性を欠くと主張する。

しかしながら、被告は大阪地方裁判所とは別個独立の懲戒権を有すること前述のとおりであるので、本件につき同裁判所が懲戒権を発動しなかつたという一事をもつて本件処分が著しく妥当を欠くというに足りない。

次に原告大鹿本人の供述(第二回)によれば、同年七月十七日安部長官と支部組合との間に話合いのなされた事実は認められるけれども、その際同長官において従来の紛争を水に流し本件の違法な所為につきその責任を問わない趣旨を述べたとの事実を認むべき証拠はない。却つて原告大鹿原義本人尋問(第二回)の結果によれば、右交渉の席上同長官において雇見習昇任試験に関連しての支部組合員らの違法行為の責任問題には別段言及しなかつた事実が認められるから、この点について責任不追及の意図が表明されたと見ることはできない。

よつて、本件各懲戒処分の妥当性を争う原告らの主張は理由がない。

(三)  本件処分が憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項に違反するとの主張について

原告らがいずれも支部組合においてそれぞれ別紙第一ないし第四の処分の理由と題する項冒頭記載の役職にあたつたことは当事者間に争いがなく、右役職のほか、原告溝畑馨二本人尋問の結果によれば、原告溝畑は昭和二十六年春支部組合青年部役員となり、翌二十七年春から同二十九年三月六日まで支部組合副委員長の職にあつたこと(昭和二十八年度に右副委員長であつたことは当事者間に争いがない)、原告高津和子本人尋問(第一回)の結果によれば、原告高津は昭和二十八年当時支部組合簡裁分会の委員をなしていたこと、原告大鹿原義本人尋問(第一回)の結果によれば、原告大鹿は昭和二十八年当時全司法大阪地連青年婦人対策部長の職にあつた事実が認められ、また各原告本人尋問(原告高津和子、大鹿原義については第一回及び第二回)の結果によれば、前記認定の各違法なる活動はこれを別としても、合法的にも原告らは前示昇任試験問題に関連しいずれも拡大闘争委員の一員として活溌に活動していた事実が認められる。しかしながら、原告らが被告の不当労働行為意思を推測せしめる事実として主張するいわゆる四号調整問題、庁舎におけるビラ貼り禁止などはこれを以て被告が全司法の解体ないし弱体化、あるいは活動の妨害を計るべく採つた措置とは必ずしも認め難いところであり、また、全司法秋田支部から二名の専従中央執行委員が選出された際、被告の採つた措置として原告らの主張する事実についてはこれを認めるに足る証拠がない。そして、被告が原告らの前記のような平素の正当な組合活動を嫌悪していた事実を認むべき証拠がないことと、原告らの懲戒処分の対象となつた行為は公務員としてふさわしくない非行であると評価されることなどを綜合すれば、本件各懲戒処分が原告らの全司法の組合員としてなした正当な活動の故になされたとは到底認め難く、却つて被告が懲戒理由として主張する前記認定の各非行の故になされたものと認めざるを得ない。

したがつて、本件処分が憲法第二十八条、国公法第九十八条第三項に違反するとの主張は理由がない。

第三  以上の次第で、原告らがその取消理由として主張するところはいずれも理由がないから、本件懲戒処分を違法として取消を求める原告らの本訴請求は失当である。

よつて、本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 岩村弘雄 三好達)

(別紙第一)

一 被処分者       溝畑馨二

二 処分当時の官職、級号 大阪地方裁判所 書記官補 五級六号

三 処分時期       昭和二十九年三月六日

四 処分説明書受領日時  昭和二十九年三月六日

五 処分者の官職、氏名  最高裁判所

六 処分の種類程度    懲戒免職

七 処分の理由

溝畑馨二は、昭和二十三年十二月大阪地方裁判所雇として採用せられ、昭和二十四年一月裁判所事務官に任命され同年七月一日裁判所事務官兼裁判所書記官補となり、次で昭和二十四年七月三十日裁判所書記官補に専任され同裁判所に勤務しており、昭和二十八年度における全国司法部職員労働組合大阪支部の副委員長であり、且つ、同年六月上旬頃から後記拡大斗争委員会の委員でもあつた。

第一 大阪高等裁判所及び同地方裁判所においては昭和二十八年六月現在における雇の欠員十七名を補充するため、両裁判所及大阪家庭裁判所勤務の雇見習に対し、昭和二十八年最高裁判所人任第八九〇号通達記二の2による事務雇選考試験を行うこととし、同年六月三十日試験計画を公表したところ、全国司法部職員労働組合大阪支部(以下「組合」と称す。)の夏期斗争期間における議決及び執行機関として組織されていた拡大斗争委員会においては、組合としては右試験実施には反対するが、試験実施の場合に受験するか否かは受験資格者の自由意思に委かせ受験を阻止するようなことは為さない旨の決議がなされたが、裁判所当局に対しては屡々試験実施反対の申入がなされた。その間組合内部においては、この試験に関して穏健派と試験の実施を阻害せんとする急進派の対立があり、森田孝行、高田静雄、森口光二等は穏健派に属し、米虫寛、田頭和夫、三根勝、弘岡経樹、福井弘、小林健治、谷本幸雄、市道治千代、大鹿原義、高津和子、大和千恵子等は何れも急進派であり、溝畑馨二も亦急進派の有力なメンバーの一人であつた。ところが組合の反対にも拘らず受験資格者の大多数は裁判所当局に対し受験願書を提出して受験の意思を表明したため組合の試験実施反対運動はそのままではその実効を収めることが殆ど不可能な状態に立ち到つた。ここにおいて組合の従来の運動方針では手緩しとして大阪地方裁判所書記官補福井弘(組合員)、大阪簡易裁判所書記官補市道治千代(拡大斗争委員)、大阪高等裁判所休職雇三根勝(吹田事件被告人、組合書記)等急進派に属する組合幹部は大阪高等裁判所雇見習弘岡経樹(組合員)等受験資格者の一部の者と共に同年七月十一日午後大阪市内中之島公園に集り、協議の結果、受験を拒否する者は試験当日大阪中央郵便局前に集合すべく、なお、受験志願者の私宅を訪問して受験拒否を勧誘し試験当日には前示郵便局前に集合せしめ、然る上これら受験者をピクニツクに連行すべき旨を申し合せ、その分担をも定め、試験反対運動の実効を確実に収めんことを企てた。

右中之島公園における申し合せに基き、福井弘、大阪高等裁判所雇田頭和夫(拡大斗争委員)、弘岡経樹、三根勝、大鹿原義、大和千恵子、高津和子等は同十一日若しくは翌十二日受験志願者をその自宅に訪問し、或いは筆記試験当日たる同月十三日朝大阪高等裁判所正面入口附近において登庁する受験志願者を待ち受けて受験拒否を勧誘すると共に、同十三日午前八時頃大阪中央郵便局前にこれら志願者を参集させた上、福井、弘岡、三根等において、これら志願者約十名を引卒して阪急沿線清荒神へピクニツクを催おし、結局当日試験を受くべき二十五名中(志願者三十名中五名は筆記試験免除者)十二名に対し受験を抛棄せしめた。右の事実を知つた拡大斗争委員会委員長森田孝行は高田静雄、大川県四郎の両名と協議の上、右急進分子の行動は組合の決定を無視し健全な組合執行部を破壊せんとする行為である。組合としては当初決定通りの意思を堅持する。受験資格者は努めて受験せられるよう希望する旨の声明書を作成して庁内に配布した。このことを知つた溝畑馨二は急進派たる市道、福井、大和、大鹿、高津等十数名の者と共に翌七月十四日午前九時頃より十二時過迄の間右声明書に関し、森田、大川、高田に対する査問委員会なりとして、大阪地方裁判所内にある組合事務室に三名を呼び右三名を査問し遂に森田をして拡大斗争委員長を辞任せしめるに至らしめ、市道をして、これに代えたのであるが、溝畑は右査問委員会において、福井、市道、米虫等と共に最も活溌に発言してその主体の一人となつていたものであり、右委員会の断続中に上司に無断で、且つ、何等正当の事由なく職場を離脱したものである。

第二 七月十三日の筆記試験終了後拡大斗争委員会は右試験に十二名の欠席者を出したのは裁判所側が不合理な試験を強行したためで責任は裁判所側にあると言い掛り的な非難をなしていたが、これとは別個に大阪高等裁判所長官に対し庁婦、小使などの差別を徹廃し廷吏一本にせよ外十六項目の要求事項を提出してその回答を求めて居た。大阪高等裁判所事務局長西山要は十三日及び十四日午前中の二回に亘つて組合側に対し十四日十二時十五分より約三十分間組合代表者五名乃至七名と面会し要求事項に対する回答をする旨連絡した。然るに溝畑馨二は、市道、福井、大和、高津、大鹿等約二十名の組合員と共に十四日十二時十五分過頃大阪高等裁判所事務局長室に押掛け局長西山要に面会を求めた。局長はこれらに対し(イ)面会は代表者七名に限ること(ロ)職員に非ざる中田四一は大阪高裁判所が定めた大阪支部組合事務所使用規定に違反して高等裁判所に届出のない者であるから直ちに退室すること(ハ)局長は午後一時の電車で奈良に公務出張をしなければならないので面会は三十分に限ることを告げたか、中田四一は退室せず組合員等は代表者並びに時間を制限することに反対し、旦つ右試験を施行したのを不法なりとし、十二名の欠席者については裁判所の責任であるから裁判所側が責任を負え等と称しその態度言語非礼を極め西山局長を悪罵し喧騒を極めた。よつて局長は、組合員に真面目に話し合いに応ずる誠意なしと認め、同日の会見を取り止め全員退室すべき旨申し入れたが、全然聞き入れる様子がないので止むなく前記要求事項の回答を為すべき旨を告げ十二時四十分頃より約一時間に亘り大阪高等裁判所事務局総務課長を同席せしめて要求事項全部に対する回答を為し回答終了後組合員に対し公務のため直ちに奈良へ出張する必要があるので今日はこれで解散されたいと告げたのであるが、なおも悪罵、野次を飛ばし退室の模様もないので遂に一時五十分全員に退室を命じた全員はなおこれに応じないで悪罵、野次を継続し、遂いに西山局長は止むなく自ら退室するに至つたのであるが、以上の間にあつて溝畑は市道、福井、小林健治等と共に主体となつて活躍し、且つ、市道、福井、米虫、田頭、弘岡、小林、大和、大鹿、高津等と共に退室命令を受けながら二時二十分頃局長自ら退去するに至るまで不法に局長室より退去せず、且つ、右命令申渡(一時五十分頃)より二時二十分頃までの間上司の許可なく、且つ、何等正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものである。

第三 同年七月十五日午前十時過頃溝畑馨二は、市道、福井、米虫、田頭、大鹿、三根、岩淵等約二十名の組合員と共に大阪高等裁判所長官室の前廊下に集合し、今次の試験の中止並びに前示要求事項に関し大阪高等裁判所長官安倍恕に面接を求めたが、西山局長は試験に関しては面接の必要なく、要求事項に対しては回答済であるから会見には応じられない旨述べたが、溝畑等は容易に承知せず執拗に長官に対する面会を要求して喧騒を極めた。長官は折柄人事問題について来合せて居た最高裁判所人事局長と会談中であり然も同局長は同日十二時三十分発の汽車で帰京の予定であつたので溝畑等組合員の要求に事実上も応ずることができなかつたが、前記の喧騒に堪え兼ねて長官は十時四十五分頃自ら室外に出て、目下会談中であるから午後一時から会見する旨を告げた。然るに溝畑等組合員は今何故会見できぬかと執拗に面会を強要し、長官より重要な人事の協議をして居るから一時から会見する旨再三説得があつたのに拘らず之に応じないで長官に誠意なし、即刻面会せよと強硬に主張して喧騒を極めた。そこで長官は止むなく午前十一時頃組合員に対し口頭で退去命令を出したが組合員はこれに応じなかつた。長官は右命令後西山局長を交えて自室で人事局長と引続き人事について協議していたが、午前十一時半頃福井は無断で長官室のドアを開け、協議中の人事局長を見つけるや、組合員との面会を申し込んだので、人事局長は止むなく十一時四十分頃から十二時十分頃まで溝畑を混えた福井、米虫、田頭、市道、大鹿等と面接をした。以上の状況の下に溝畑は福井、市道、米虫、田頭、大鹿等と共に同日午前十時四十五分即ち長官が午後一時に面会する旨申渡した時から同十一時半頃即ち人事局長が面会を許容した時までの間上司の許可なく且つ何等正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものである。

第四 同年同月十六日大阪高等裁判所会議室において前記選考試験の面接試験が施行中であつたが、午前十時十分頃溝畑は福井、米虫等十数名の組合員と共に長官室廊下に集合して長官に面接を申込んだが、長官より同日は所用のため面接は出来ない、翌十七日午後に面接する旨を総務課長を通じて伝えられたにも拘らず、之を承知しないで依然廊下に頑張つていた。そして偶々廊下に出でた長官を押えて面会を強要し、長官より同日は会議室(長官室の隣室)で面接試験実施中であるから、廊下で多人数集合して騒ぐのは困る。

面会は明日十七日にされたい旨を言われたのに対しなおも執拗に面会を強要し、福井、米虫等は長官を追つて長官室に無断で入り更に面談を強要する態度に出でた。この事態を看て十時四十五分頃長官並びに大阪地方裁判所長小原仲は全員に対して職場に復帰することを命じたので、十一時三十分頃全員は漸く退去したのであるが、溝畑は福井、米虫と共に午前十時十分頃即ち長官が総務課長を通じて面会を拒絶したときから十一時三十分頃まで上司の許可なく、且つ、何等の正当の事由なき拘らず職場を離脱したものである。

八 根拠法規

第一ないし第四事実について

裁判所職員臨時措置法国家公務員法、第八十四条第二項、同法第八十二条第一号、第二号、第三号

(別紙第二)

一 被処分者名      高津和子

二 処分当時の官職、級号 大阪簡易裁判所

裁判所書記官補 六級一号

三 処分時期       昭和二十九年三月六日

四 処分説明書受領日時  昭和二十九年三月七日

五 処分者の官職氏名   最高裁判所

六 処分の種類、程度   懲戒免職

七 処分の理由

高津和子は昭和二十二年四月雇として大阪区裁判所に採用され同二十三年九月裁判所事務官に同二十五年五月裁判所書記官補に任命せられ、大阪簡易裁判所に勤務している者であり、昭和二十八年度における全国司法部職員労動組合大阪支部の組合員として同支部の後記拡大闘争委員会にその委員の一人として出席していた者であつた。

第一 大阪高等裁判所及び同地方裁判所においては、昭和二十八年六月現在における雇の欠員十七名を補充するため両裁判所及び大阪家庭裁判所勤務の雇見習に対し、昭和二十八年最高裁判所人任第八九〇号通達記二の2による事務雇選考試験を行うこととし、同年六月三十日試験計画を公表したところ全国司法部職員労働組合大阪支部(以下「組合」と称す。)の夏期闘争期間における議決及び執行機関として組織せられていた拡大闘争委員会においては組合としては右試験実施には反対するが試験実施の場合に受験するか否かは受験資格者の自由意思に委かせ受験を阻止するようなことは為さない旨の決議がなされたが、裁判所当局に対しては屡屡試験実施反対の申入がなされた。その間組合内部においては、この試験に関して穏健派と試験の実施を阻害せんとする急進派の対立があり、森田孝行、高田静雄、森口光二等は穏健派に属し、米虫寛、田頭和夫、三根勝、弘岡経樹、福井弘、小林健治、谷本幸雄、市道治千代、溝畑馨二、大鹿原義、大和千恵子等は何れも急進派であり、高津和子も亦急進派に属した。ところが組合の反対にも拘らず後記松本美奈子外受験資格者の大多数は裁判所当局に対し受験願書を提出して受験の意思を表明したため組合の試験実施反対運動はそのままではその実効を収めることが殆んど不可能な状態に立ち至つた。

ここにおいて組合の従来の運動方針では手緩しとして拡大闘争委員中の前記急進派たる市道治千代等及び委員でない福井弘、三根勝、受験資格者の弘岡経樹等は同年七月十一日午後大阪市内中之島公園に集まり、此等の者の主唱により受験を拒否する者は試験当日午前八時大阪中央郵便局前に集合すべく、なお受験資格者の私宅を訪問して受験拒否を勧誘し試験当日には前示郵便局前に集合せしめ、然る上これら受験者をピクニツクに連行すべき旨を申し合せ、その分担をも定めた。しかし同日夜大阪地方裁判所庁舎内において拡大斗争委員会が開かれ受験を阻止するか否かについて論議がなされたが、組合の当初の方針は変更せられず、又前記急進派の申し合せの如きは固より発表せられなかつた。

高津和子は前記市道、福井等の指導の下に決定した方針に基き、同月十二日午後六時半頃受験志望者たる大阪高等裁判所雇見習松本美奈子をその自宅に訪れ同人に対し同人の前示試験受験の志望を抛棄させる目的を以て「土曜日の昼から組合会議を開き試験を受けさせないことに決めたから、あんたも受けないようにして呉れれ、試験を受けないときは不利益を受けないよう組合で責任をもつ、今迄試験を受けたいという人は自由に受けさすということになつたが十一日の会議で受けさせないことに決つた。どうしても受けたいという人が二、三人あるが他の者が受けなければ日延になるか駄目になつて全員雇に採用されることになる。皆の家に連絡してあるからあんたも受けないように。連絡のとれない人には試験の日裁判所の門のところで張り番して皆受けないように連絡するから」等虚構且つ不確実のことを告げて執拗に受験拒否を勧誘し、且つ、受験の日には中央郵便局前に来てほしい、梅田地下劇場の降り口階段の処で朝八時に待ち合はそうと約束し試験当日たる同月十三日午前八時頃右の通り約束の場所にて待ち合はせて同人を前示中央郵便局前に誘導し、更に福井弘の引率する清荒神へのピクニツクに参加させて受験の志望を抛棄させたものである。

第二 第一記載の如く七月十三日組合員の急進分子が拡大闘争委員会の決議を無視して分派行動をなし結局志望者の中十二名が筆記試験を受けなかつたのを知つた同委員会委員長森田孝行は高田静雄、大川県四郎の両名と協議の上、右急進分子の行動は組合の決定を無視し、健全な組合執行部を破壊せんとする行為である。組合としては当初決定通りの意思を堅持する。受験資格者は努めて受験せられるよう希望する旨の声明書を作成して庁内に配布した。このことを知つた急進分子たる高津和子は市道、溝畑、福井等十数名の者と共に翌七月十四日午前九時頃より十二時過までの間右声明書に関し、森田、大川、高田に対する査問委員会なりとして組合事務室に三名を呼び、右三名を査問し遂に森田をして拡大斗争委員長を辞任せしめるに至らしめ市道をこれに代えたのであるが、高津和子は右査問委員会の会合に列席しその継続中上司に無断で、且つ何等正当の事由なく職場を離脱したものである。

第三 七月十三日の筆記試験終了後拡大闘争委員会は右試験に十二名の欠席者を出したのは裁判所側が不合理な試験を強行したためで責任は裁判所側にあると云い掛り的な非難を為して居たが、これとは別個に大阪高等裁判所長官に対し庁婦小使などの差別を撤廃し廷吏一本にせよ外十六項目の要求事項を提出してその回答を求めていた。

大阪高等裁判所事務局長西山要は十三日及十四日午前中の二回に亘つて組合側に対し十四日十二時十五分より約三十分間組合代表五名乃至七名と面会し要求事項に対する回答をする旨連絡した。

然るに高津和子を混えた市道、福井、溝畑、大和、大鹿等約二十名の組合員は十四日十二時十五分過頃大阪高等裁判所事務局長室に押掛け局長西山要に面会を求めた。局長は此等に対し(イ)面会は代表者七名に限ること(ロ)職員に非らざる中田四一は大阪高等裁判所が定めた大阪支部組合事務所使用規定に違反して高等裁判所に届出のない者であるから直ちに退室すること(ハ)局長は午後一時の電車で奈良に公務出張しなければならないので面会は三十分に限ることを告げたが、中田四一は退室せず組合員等は代表者並びに時間を制限することに反対し、且つ、右試験を施行したのを不法なりとし、十二名の欠席者については裁判所の責任であるから裁判所側が責任を負え等と称しその態度言語非礼を極め西山局長を悪罵し喧噪を極めた。よつて局長は組合員は真面目に話し合いに応ずる誠意なしと認め、同日の会見を取り止め全員退室すべき旨申し入れたが全然聞き入れる様子がないので止むなく、前記要求事項の回答を為すべき旨を告げ十二時四十分頃より約一時間に亘り、大阪高等裁判所事務局総務課長を陪席せしめて要求事項全部に対する回答をなし回答終了後所用の為直ちに奈良へ出張する必要が るので今日はこれが解散されたいと告げたのであるが、猶も悪罵、野次を飛ばし、退室の模様もない で遂に一時五十分頃全員に退室を命じたが、全員はなおこれに応じないで悪罵、野次を継続し、ついに西山局長は止むなく自ら退室するに至つたのであるが、高津和子は市道、福井、溝畑、大鹿、大和等と共に退室命令を受けながら二時二十分頃局長自ら退去するに至るまで不法に局長室より退去せず且つ、右命令申渡(一時五十分頃)より二時二十分頃迄の間に上司の許可なく且つ、何等正当の理由なきに拘らず職場を離脱したものである。

八 根拠法規

第一乃至第三事実について裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十四条第二項

第一事実について国家公務員法第八十二条第一号、第三号

第二事実について国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

第三事実について国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

(別紙第三)

一 被処分者名      大鹿原義

二 処分当時の官職、級号 大阪地方裁判所  雇

五級二号

三 処分時期       昭和二十九年三月六日

四 処分説明書受領日時  昭和二十九年三月七日

五 処分者の官職氏名   最高裁判所

六 処分の種類、程度   懲戒免職

七 処分の理由

大鹿原義は昭和二十五年六月より大阪地方裁判所雇として同裁判所に勤務して居り、昭和二八年度における全国司法部職員労働組合大阪支部の青年部の青年部長であり、且つ、同年六月上旬頃から後記の拡大斗争委員会の委員でもあつた。

第一 大阪高等裁判所及同地方裁判所に於いては昭和二八年六月現在における雇の欠員十七名を補充するため両裁判所及大阪家庭裁判所勤務の雇見習に対し、昭和二八年最高裁判所人任第八九〇号通達記二の2に依る事務雇選考試験を行う事とし、同年六月三十日試験計画を公表したところ、全国司法部職員労働組合大阪支部(以下「組合」と称す)の夏期斗争期間に於ける議決及び執行機関として組織されていた拡大斗争委員会においては組合として右試験実施には反対するが試験実施の場合には受験するか否かは受験資格者の自由意思に委せ受験を阻止するようなことは為さない旨の決議がなされたが裁判所当局に対しては屡々試験実施反対の申入がなされた。その間組合内部においては、この試験に関して穏健派と試験の実施を阻害せんとする急進派の対立があり、森田孝行、高田静雄、森口光二等は穏健派に属し、米虫寛、田頭和夫、三根勝、弘岡経樹、福井弘、小林健治、谷本幸雄、市道治千代、溝畑馨二、高津和子、大和千恵子等は何れも急進派であり大鹿原義も亦急進派に属した。ところが、組合の反対にも拘らず後記太田勝三、米田一郎等外受験資格者の大多数は裁判所当局に受験願書を提出して受験の意思を表明したため組合の試験実施反対運動はそのままではその実効をおさめることが殆ど不可能な状態に立ち到つた。

ここにおいて組合の従来の運動方針は手緩しとして拡大斗争委員中の前記急進派たる市道治千代等及び委員でない福井弘、三根勝、受験資格者の弘岡経樹等は同年七月十一日午後市内中之島公園に集り此等の者の主唱により受験を拒否する者は試験当日午前八時大阪中央郵便局前に集合すべく、尚、受験資格者の私宅を訪問して受験拒否を勧誘し試験当日には前示郵便局前に集合せしめ、然る上これ等受験者をピクニツクに連行すべき旨を申し合せ、その分担をも定めた。しかし、同日夜大阪地方裁判所庁舎内に於いて、拡大斗争委員会が開かれ受験を阻止するか否かについて論争がなされたが、組合の当初の方針は変更されず、又前記急進派の申し合せの如きは固より発表もせられなかつた。

大鹿原義は、前記市道、福井等の指導の下に決定した方針に基き、同月十二日夜受験志願者たる大阪地方裁判所雇見習太田勝三をその自宅に訪れ同人の前記試験受験の志望を抛棄させる目的をもつて、十一日の午後三時頃中之島で雇見習の会合があつたが、その時今度の試験は全員拒否することに決まり、居合せた者が各班に分れてこの決議を知らない人の家を訪ねるように決つた。それで十三日朝八時頃中央郵便局の前に集つてくれと申向け恰も志願者全員が受験を拒否するものと誤信せしめ、更に受験者たる同地方裁判所雇見習米田一郎の自宅を訪れ前同様の目的を持つて、十一日に試験拒否の決議をしたから十三日には八時頃中央郵便局の前に集つてくれと申し向け、恰も受験志願者が真実その旨の決議をしたものと誤信せしめ、夫々右両名を翌十三日午前八時過頃中央郵便局の前に集合せしめ、両名を前記福井等の誘導の下に清荒神へのピクニツクに参加せしめて受験の志望を抛棄させたものである。

第二 第一記載の如く七月十三日組合員の急進分子が拡大斗争委員会決議を無視して分派行動を為し結局志願者の中十二名が筆記試験を受けなかつたのを知つた同委員会委員長森田孝行は、高田静雄、大川県四郎の両名と協議の上、右急進分子の行動は組合の決定を無視し、健全な組合執行部を破壊せんとする行為である。組合としては当初決定通りの意思を堅持する、受験資格者は務めて受験せられるよう希望する旨の声明書を作成して庁内に配布した。このことを知つた急進派たる大鹿原義は市道、溝畑、福井等十数名と共に翌七月十四日午前九時頃より十二時過頃迄の間、右声明書に関し、森田、大川、高田に対する査問委員会なりとして組合事務室に三名を呼び右三名を査問し、遂に森田をして拡大斗争委員長を辞任せしむるに至らしめ、市道をこれに代えたのであるが、大鹿原義は右査問会の会合に列席しその継続中上司に無断で、且つ何等正当の事由なく職場を離脱したものである。

第三 七月十三日の筆記試験の終了後拡大斗争委員会は、右試験に十二名の欠席者をだしたのは裁判所側が不合理な試験を強行したためで責任は裁判所側にあるとし言い掛り的な非難をなしていたが、これとは別個に大阪高等裁判所長官に対し庁婦小使などの差別を撤廃し廷吏一本にせよ外十六項目の要求事項を提出してその回答を求めていた。

大阪高等裁判所事務局長西山要は十三日及び十四日午前中の二回に亘つて組合側に対し十四日十二時十五分より約三十分間組合代表者五名乃至七名と面会し要求事項に対する回答をする旨連絡した。然るに大鹿原義を混えた市道、福井、溝畑、高津、大和等約二十名の組合員は十四日十二時十五分過頃大阪高等裁判所事務局長室に押掛け、局長西山要に面会を求めた。局長はこれらに対し(イ)面会は代表者七名に限ること(ロ)職員に非ざる中田四一は大阪高等裁判所が定めた大阪支部組合事務所使用規定に違反して高等裁判所に届出のないものであるから直ちに退室すること(ハ)局長は午後一時の電車で奈良に公務出張をしなければならないので面会は三十分に限ることを告げたが中田四一は退室せず組合員等は代表者並に時間を制限することに反対し、且つ右試験を施行したのを不法なりとし、十二名の欠席者については裁判所側の責任であるから裁判所側が責任を負え等と称し、その態度言語非礼を極め西山局長を悪罵し喧騒を極めた。よつて局長は組合員等は真面目に話し合に応ずる誠意なしと認め、同日の会見を取り止め全員退室すべき旨申しいれたが、全然きき入れる様子がないので止むなく前記要求事項の回答をなすべき旨を告げ十二時四十分頃より約一時間に亘り大阪高等裁判所事務局総務課長を陪席せしめて要求事項にたいする回答をなし回答終了後所用のため直に奈良へ出張する必要があるので今日はこれで解散されたいと告げたのであるが、尚も悪罵し、野次をとばし退室の模様もないので遂に一時五〇分全員に退室を命じたが全員はなおこれに応じないで悪罵、野次を継続し、ついに西山局長は止むなく自ら退室するに至つたのであるが、大鹿原義は市道、福井、溝畑、大和、高津等と共に退室命令を受けながら二時二十分頃局長自ら退去するに至るまで不法に局長室より退去せず、且つ、右命令申渡(一時五十分頃)より二時二十分頃までの間上司の許可なく、且つ何等正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものである。

八 根拠法規

第一乃至第三事実について裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十四条第二項

第一事実について国家公務員法第八十二条第一号、第三号

第二事実については国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

第三事実について国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

(別紙第四)

一 被処分者       大和千恵子

二 処分当時の官職、級号 大阪地方裁判所 タイピスト

四級三号

三 処分時期       昭和二十九年三月六日

四 処分説明書受領日時  昭和二十九年三月七日

五 処分者の官職、氏名  最高裁判所

六 処分の種類、程度   懲戒免職

七 処分の理由

大和千恵子は昭和二十六年四月二日大阪地方裁判所タイプストとして採用され同裁判所に勤務しており昭和二十八年度における全国司法部職員労働組合大阪支部婦人部の婦人部長であり且つ同年六月上旬から後記の拡大斗争委員会の委員であつた。

第一 大阪高等裁判所及び同地方裁判所においては昭和二十八年六月現在における雇の欠員十七名を補充するため両裁判所及び大阪家庭裁判所勤務の雇見習に対し昭和二十八年最高裁判所人任第八九〇号通達記二の2による事務雇選考試験を行うこととし、同年六月三十日試験計画を公表したところ、全国司法部職員労働組合大阪支部(以下「組合」と称す)の夏期斗争期間における議決及び執行機関として組織されていた拡大斗争委員会においては、組合としては右試験実施には反対するが試験実施の場合に受験するか否かは受験資格者の自由意思に委かせ受験を阻止するようなことは為さない旨の決議が為されたが、裁判所当局に対しては屡々試験実施反対の申入れがなされた。その間組合の内部においては、この試験に関して穏健派と試験の実施を阻害せんとする急進派の対立があり、森田孝行、高田静雄、森口光二等は穏健派に属し、米虫寛、田頭和夫、三根勝、弘岡経樹、福井弘、小林健治、谷本幸雄、市道治千代、溝畑馨二、大鹿原義等は何れも急進派であり、大和千恵子もまた急進派に属した。ところが組合の反対にも拘らず後記岡野恵美子、上原孝子、藤田昌子等外受験資格者の大多数は裁判所当局に対し、受験願書を提出して受験の意思を表明したため組合の試験実施反対運動はそのままではその実効をおさめることが殆んど不可能な状態に立ち到つた。ここにおいて組合の従来の運動方針では手緩しとして、拡大斗争委員中の前記急進派たる市道治千代等及び委員でない福井弘、三根勝、受験資格者たる弘岡経樹等は同年七月十一日午後大阪市内中之島公園に集り此等の者の主唱により受験を拒否する者は当日午前八時大阪中央郵便局前に集合すべく、なお、受験資格者の私宅を訪問して受験拒否を勧誘し試験当日には前示郵便局前に集合せしめ、然る上これ等受験者をピクニツクに連行すべき旨を申し合せ、その分担をも定めた。しかし同日夜大阪地方裁判所庁舎内において拡大斗争委員会が開かれ受験を阻止するか否かについて論争がなされたが、組合の当初の方針は変更されず、又前記急進派の申し合せの如きは固より発表もせられなかつた。

大和千恵子は前記市道、福井等の下に決定した方針に基き三根勝と共に試験当日たる七月十三日午前九時頃大阪地方裁判所構内組合事務室に於て受験志願者たる同裁判所雇見習岡野恵美子に対し同人の前記試験受験の志望を抛棄させる目的をもつて「皆試験を受けないから受験しないで貰いたい」等と虚構の事実を述べて受験拒否を勧誘し、同人を大阪中央郵便局前に同行した上、更に前同様の目的をもつて三根勝、弘岡経樹等と共に右岡野恵美子の外大阪高等裁判所雇見習上原孝子、同藤田昌子等の受験志願者等をも引卒して清荒神へ赴き、同所でさきに福井弘引卒の受験志願者等と合流し以つて岡野恵美子等をして受験の志望を抛棄させたものである。

第二 第一記載の如く七月十三日組合員の急進分子が拡大斗争委員会の決議を無視して分派行動をなし結局志望者の中十二名が筆記試験を受けなかつたのを知つた同委員会委員長森田孝行は、高田静雄、大川県四郎の両名と協議の上、右急進分子の行動は組合の決定を無視し、健全な組合執行部を破壊せんとする行為である。組合としては当初決定通りの意思を堅持する。受験資格者は努めて受験せられるよう希望する旨の声明書を作成して庁内に配布した。このことを知つた急進派たる大和千恵子は市道、溝畑、福井等十数名の者と共に翌七月十四日午前九時頃より十二時過頃迄の間右声明書に関し森田、大川、高田に対する査問委員会なりとして組合事務室に三名を呼び、右三名を査問し、遂に森田をして拡大斗争委員長を辞任せしむるに至らしめ市道を之に代えたのであるが、大和千恵子は右査問委員会の会合に列席しその継続中上司に無断で且つ何等正当の理由なく職場を離脱したものである。

第三 七月十三日の筆記試験終了後拡大斗争委員会は、右試験に十二名の欠席者をだしたのは裁判所が不合理な試験を強行したためで、責任は裁判所側に在ると言い掛り的な非難を為して居たが、これとは別個に大阪高等裁判所長官に対し庁婦、小使等の差別を撤廃し廷吏一本にせよ外十六項目の要求事項を提出して回答を求めて居た。大阪高等裁判所事務局長西山要は十三日及び十四日の午前中の二回に亘つて組合側に対し十四日十二時十五分より約三十分間組合代表者五名乃至七名と面会し要求事項に対する回答をする旨連絡した。然るに大和千恵子を混えた市道、福井、溝畑、高津、大鹿等約二十名の組合員は十四日十二時十五分過頃大阪高等裁判所事務局長室に押掛け局長西山要に面会を求めた。局長はこれらに対し

(イ) 面会は代表者七名に限ること。(ロ)職員に非らざる中田四一は大阪高等裁判所が定めた大阪支部組合事務所使用規定に違反して大阪高等裁判所に届出のない者であるから、直に退室すること。(ハ)局長は午後一時の電車で奈良に公務出張しなければならないので面会は三十分に限ることを告げたが、中田四一は退室せず、組合員は代表者並に時間を制限することは反対し、且つ、右試験を施行したのを不法なりとし、十二名の欠席者については裁判所の責任であるから裁判所側が責任を負え等と称しその態度言語非礼を極め西山局長を悪罵し喧噪を極めた。よつて局長は、組合員は真面目に話し合いに応ずる誠意なしと認め、同日の会見を取り止め全員退室すべき旨を申し入れたが、全然聞き入れる様子がないので止むなく前記要求事項の回答を為すべき旨を告げ十二時四十分頃より約一時間に亘り大阪高等裁判所事務局総務課長を陪席せしめて要求事項に対する回答を為し、回答終了後所用のため直ちに奈良へ出張する必要があるので今日はこれで解散されたいと告げたのであるが猶も悪罵し、野次を飛ばし退室の模様もないので遂に一時五十分全員に退室を命じたが全員はなおこれに応じないで悪罵、野次を継続し、ついに西山局長は止むなく自ら退室するに至つたのであるが大和千恵子は市道、福井、溝畑、大鹿、高津等と共に退室命令を受けながら二時二十分頃局長自ら退去するに至るまで不法に局長室より退去せず且つ右命令申渡(一時五十分頃)より二時二十分頃迄の間上司の許可なく、且つ、何等正当の理由がないに拘らず職場を離脱したものである。

八 根拠法規

第一乃至第三事実について裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十四条第二項

第一事実について国家公務員法第八十三条第一号、第三号

第二事実について国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

第三事実について国家公務員法第八十二条第一号、第二号、第三号

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